こつこつMR!

医療業界のDXをチャンスに。デジタルヘルスの先を目指すあなたへお役に立てる情報を。

治療用アプリは自己肯定感なくして効果なし!?

治療用アプリと自己肯定感

ますます注目をあつめる治療用アプリ。日本でも、始めて保険診療が認められた禁煙アプリが出て話題となりました。

さて先日、デバイスやアプリなどを活用した治療効果などのエビデンスを扱っているJMIR(Journal of Medical Internet Reserch)に、2型糖尿病患者を対象とした治療用アプリの論文が掲載されていました。この論文によると、その治療効果には自己肯定感がファクターになるのだとか。要点を掻い摘んでご紹介します。

記事の概要
  • 治療用アプリの効果に影響を与える因子について
  • デジタルツールを最大化させるために医療従事者に必要なことについて

 

どんなスタディ?

2型糖尿病患者16人に対し電話形式でのインタビューを実施し、治療用アプリ(Web-based solution)の使用感や障壁などを3か月間調査しています。

 

ベースラインでは14回、その後のフォローアップとして12回のインタビューを実施し、HbA1cの低下効果も同時に測定しています。

 

引用文献:A Mobile App to Improve Self-Management of Individuals With Type 2 Diabetes: Qualitative Realist Evaluation (JMIR 2018)

 

患者背景とグループ分け

こちらの試験では3つの群に分けて解析を行っていますが、その分け方が面白く、「治療に対するモチベーション」によってグループ化しています

 

以下に対象の患者背景として特徴的なものをまとめます。

グループA:アーリーアダプター(n=4)

  • 年齢:平均57歳
  • 診断後の期間:平均6か月間
  • 治療薬:経口薬4例
  • ベースラインHbA1c:7.5%

グループB:スローアダプター(n=4)

  • 年齢:平均59歳
  • 診断後の期間:平均19年間
  • 治療薬:インスリン1例 経口薬+インスリン3例
  • ベースラインHbA1c:8.5%

グループC:ローエンゲージャー(n=5)

  • 年齢:平均42歳
  • 診断後の期間:平均6年間
  • 治療薬:経口薬3例 インスリン1例 経口薬+インスリン1例
  • ベースラインHbA1c:10.0%

 

治療に対するモチベーションでグループ分けをしているからだと思われますが、患者背景にはかなりばらつきがあります。また、nが非常に小さいというのも影響しているでしょう。

 

結果と考察

 HbA1c低下効果は?

いずれの群でも、3か月後のHbA1c低下効果を測定しています。

 

グループAではベースライン7.5%から6.0%まで低下しました。また、グループBではベースライン10.0%から8.3%低下しています

 

一般的な経口糖尿病治療薬でも、1.0%下がれば御の字という中で、どちらも1.0%以上の低下となっており、かなりインパクトのある数字だと思います。(ただ患者のセレクションでかなりのバイアスがありますので、解釈は注意が必要ですね。こちらは後述します。)

 

一方、グループCではベースライン8.7%から8.8%と微増であり、ほとんど変化が無いという結果でした

 

被験者の声

今回のスタディでは、3種類のWeb-based solutionいずれかに登録している被験者を対象としています。それぞれのサイトを利用した際の生の声も、論文に記載があります。

 

グループごとにそのまま記載されていますので、それぞれ一つずつご紹介します。

 

グループA

I started looking up what information was on [the Diabetes Canada website], found out about what the daily types of meals you should have to control your blood sugar, and I immediately started following that.

( ウェブサイトにどんな情報があるのか探してみました。血糖値をコントロールするために摂るべき日々の食事の種類が見つかり、即実践しています。)

 

グループB

The app helps me, you know, to be testing my blood and recording it and seeing any positive changes that I’m making. And the positive changes in turn help to sort of encourage me to continue it.

 (アプリは、血糖値の測定と記録に役立っていて、私が行っている良い変化を見つけるのに役立っています。この良い変化は私の治療を継続する動機付けをしてくれています。)

 

グループC

I find it hard every time to take my insulin...it’s a real chore...Yeah, and trying to find space in my stomach that doesn’t hurt...I just feeling like giving up sometimes and not taking it...The times I haven’t taken it, it uh, then I get mad at myself which doesn’t help the situation.

(インスリンを打つのは大変ですね。お腹の中でも打つときに痛くない場所を探すのですが、時々諦めて打たないことがあります。そんな状況では、そうした自分に腹を立てるときもあります。)

 

選択バイアスと考察

 論文中にも記載がありますが、今回のスタディでは被験者の数が少なかったことに加えて、それぞれのグループでは選択バイアスがあり、HbA1cの低下効果に差が出た可能性も考えられています。

 

特に糖尿病と診断されてからの罹病機関には、群間で大きな乖離があり、これも結果に影響を与えた大きな要因でしょう。

 

また、治療に影響を与えるような「競合する優先事項」も影響を与える要因のひとつですね。自己肯定感や行動習慣の変化のほかに、競合する優先事項の有無が、治療効果にも影響を与えると結論付けています。学校や仕事によって治療への意識が弱くなってしまうと、HbA1c低下効果も減弱してしまう、というのは、肌感覚でもわかりますね。

 

筆者らは、この3つの要因(自己肯定感・行動習慣の変化・競合する優先事項)を注意深く観察し、バランスよく介入していくことが、これからの医療従事者に求められることとしています

 

治療用アプリの価値を最大化するために

 ここからは個人的な意見を述べてみます。考察にもあるように、3つの要因に介入していくことが大事であるということに賛成です。

 

競合する優先事項については、個々人のバックグラウンドによって介入の度合いも変わってきますので、意識すべきは自己肯定感の維持と行動変容の習慣化だと考えます。

 

被験者数が少ないとはいえ、今回のスタディからも分かることとして、「糖尿病と診断された直後の人」は、治療へのモチベーションも高く、自分からデータを取りに行ったり即実践したりと、非常に高いアドヒアランスがあることが読み取れます。

 

一方で、罹病機関がある程度長くなってくると治療に対する慣れもあると思いますが、どうしてもモチベーションの維持が難しくなりそうですね。

 

グループCよりもグループBの方が罹病機関が長いにもかかわらずモチベーションが高いということについては、被験者の年齢が影響しているのではないかと考えます。

 

グループCは40歳台であり働き盛りの世代のため、行動変容を起こしづらく、それがモチベーションの低下につながるというサイクルが起こっているのではないでしょうか。

 

一方でグループBは罹病機関が長くても50歳代後半。健康に気も時間も使うことが比較的容易なのではないかと考えます。

 

自己肯定感をサポートする

 では、こういった治療アプリやwebサイト上での治療サポートツールを効果的に使うにはどうしたらいいでしょうか。私は、「診断されたら何よりも先にアプリの導入を促す」ことが必要だと思います

 

糖尿病の治療であればまずは食事療法・運動療法から開始することが多いですが、正直なところ続けるのがつらいですよね。それでいて誰に褒められるわけでもなく、変化を感じづらいために、なおさら継続が難しいところ。

 

ただ、診断されたばかりの患者さんは治療に前向きであり情報ニーズも高いことは、今回のスタディからもお分かりかと思います。

 

であれば、まずは診断直後にこうしたデジタルツールを導入してもらい、糖尿病について患者自身が学びながら、自己効力感を積み上げていくことの方が効果的ではないでしょうか。

 

自発的に治療に参加することに加え、医療従事者はアプリやwebサイトの活用状況を詳細に把握し、継続して利用するサポートをする業務が効果的だと考えます。

 

医薬品であっても使わなければ意味がありませんし、使ったとしてもHbA1cを1.0%下げることがやっとなのが現状。それを踏まえると、こうしたデジタルツールを活用して患者が自発的に治療に参加する土壌を作り上げることが、これからの糖尿病治療に関わる医療従事者に必要だと思います

 

 

最後までご覧いただき本当にありがとうございました。

関連記事として、健康志向の高まりの中人気急上昇のスマートウォッチに関する情報をまとめています。よろしければそちらもご覧ください。

 

www.efforter.net

 

もしこの記事が皆さまのご参考になりましたら、ブログ村にて応援いただけると大変勇気づけられます!よろしくお願いいたします。

にほんブログ村 サラリーマン日記ブログ 勉強しているサラリーマンへ
にほんブログ村