赤字でも利益が出る医薬品ビジネスの特殊性 国が目をつける1次売差マイナスとは?
医薬品卸による談合問題も、公判が進みつつあります。世間からの風あたりも強くなる中、医薬品流通と利益構造がクローズアップされてきました。今回は、1次売差や適性流通ガイドラインの話題に触れながら、医薬品ビジネスの特殊性と今後の展望を考えてみます。
- 医療業界で働いている人
- 医薬品ビジネス、特にMR・MSに興味のある人
- これから医療業界で働きたいと考えている人
1次売差マイナスを是正しろ、と国
1次売差マイナスとは?
医薬品の物流は、まずメーカーから医薬品卸へ出荷され、卸は医療機関に納品し、最終的に医療機関から患者さんの手元へ渡ります。そのため、各ポイントを通過するたびに利益が発生するのですが、医薬品卸の目線から見ると、「メーカーから買った額よりも高く医療機関に卸せば利益」となり、これが1次売差と呼ばれます。
上図のように、本来であれば買値よりも売値の方が高いはずで、逆転してしまうと売れば売るだけ赤字になります。
しかし、医薬品ビジネスにおいては売値の方が安い、「一次売差マイナス」という現象が日常的に起こっており、問題となっています。
医薬品卸の利益構造
では、医薬品卸はどのように利益を上げているのでしょうか。メーカーは卸に対して「たくさん売ってくれたら報奨を払うよ!」というキャンペーンを打ちます。卸はそのキャンペーンから得られる報奨によって、1次売差マイナスを補っているのです。
例えば、「新規採用施設を増やしたら、その施設の数×5,000円の報奨」というキャンペーンであったり、「医療機関でパンフレットを配ってくれたら、施設の数×200円」というものであったり、様々です。
他の業種から見ると特殊な利益構造ですね。キャンペーンの報奨には、売れたか売れないかに関わらず活動したか否かで発生するものもあるので、利益率1%と言われる医薬品卸からすると、濡れ手に粟ということです。
国が問題視する理由
登場人物が皆いい形で利益を出しているんだからいいじゃないかと思ってしまいそうですが、どうやら国はそう思っていないようです。
何が問題になるかというと、まさに今回の談合問題のように、適正な市場原理が働かなくなるという点です。メーカーからの報奨によりなんとか利益を確保しているとはいえ、買値よりも安い価格で売り続けることは不可能です。1円でも、0.1%でも売上を確保したいと思うようになるのは当然です。こうした背景が慢性的に積み重なってくると、同業同士で”価格の調整”をせざるを得ない状況になってしまいます。
談合問題については別の記事に書いておりますので、もしよろしければそちらもご覧ください。
経営苦しいから安くしろ、と医療機関
薬剤購入費
病院と薬局とでは利益構造が違いますし、薬局の中でもドラッグストア併設でOTCを大量に扱っていたり個人薬局で専門性に特化したりでは背景が異なりますので一概には言えませんが、薬剤購入費は大体3割ほどを占めています。
本当は人件費下げたいけど
人件費に次いで大きなウエイトを占める支出ですから、経営の見直しの際には真っ先にメスが入ります。調剤報酬改定や「薬局多すぎ問題」のあおりを受けて、毎年のように経営が厳しくなっている現状があります。
経営者の本音としては、人件費を下げたいというのがありますね。「薬局 経営 コンサル」あたりで検索すると、大体人件費のやりくりについての記事が出てきます。
とはいっても簡単には下げられないもの。どうしても薬剤購入費を少しでも安くするようにという形になってしまうんですね。
適性流通ガイドライン
適性流通ガイドラインとは?
平成30年に厚生労働省から出された、医薬品の物流の質向上を目的としたガイドラインです。対象は、医薬品卸だけでなくメーカーや医療機関も含まれています。簡単に書くと、こんな感じです。
- メーカーには「卸への売値を安く!報奨は適度に!」
- 卸には「医薬品の安定供給を大事に!」
- 医療機関には「卸に対して不当に安い価格を要求しないこと!」
本音「たかがガイドライン」
このガイドラインが出される直前、業界内でも「この特殊な収益モデルも改善されるな~」なんて空気が漂っていました。実際、割引を見返りに大量に購入する医療機関も減り、医薬品の偏在や無駄な物流は激減しました。
一方で、価格に関してはやはり報奨ありきの風習が残っているのが正直なところです。一部外資系メーカーでは、流通卸を絞り、報奨の適正化を図る動きもありましたが、なかなか追随していないのが現状です。
まとめ:求められるモデルチェンジ
価格に関しては、現状でもすでに正直3者ともカツカツな状況です。しかし、今回の談合問題を受けて、価格への見る目はますます厳しくなると思われます。
メーカーとしても報奨ありきで仕切価を高く設定することは減っていくでしょうし、医薬品卸もその分価格を下げられなくなるでしょう。医療機関も、薬剤購入費が高くなり、支出を抑える効果は弱くなっていく気がします。
いちMRとして今後必要だと思うことは、自販力だと考えます。従来のように卸MSに協力してもらいながら広めていく人海戦術ではなく、最小限の労力で売り上げを最大化する力、またそのマーケティング力や学術的知識が求められていくのではないでしょうか。
最後までご覧いただき本当にありがとうございました。もしこの記事が皆さまのご参考になりましたら、ブログ村にて応援いただけると大変勇気づけられます!よろしくお願いいたします。
にほんブログ村